桜餅

季節ごとのお菓子
桜餅

和菓子には、これから訪れる「季節」を先取りして感じさせる……という役割があります。春の到来を告げる代表的なお菓子の1つ、「桜餅」。多くの地域で桜の花が開花するのは3月末〜4月の始めですが、桜餅が販売されるのは一般的には2月から。3月3日、「桃の節句」のお祝いの際に手土産としてご利用いただくことも多いことから、塩瀬総本家では2月の末に桜餅づくりのピークを迎えます。最盛期には、職人たちが総出で早朝から桜餅づくりに勤しむのが毎年の光景です。

 

 

桜餅には関東風と関西風の2種類があるのをご存知でしょうか? 水溶きした小麦粉をクレープ状に焼き、餡を巻くのが関東風で、塩瀬総本家の桜餅はこちらのもの。江戸時代に隅田川のほとりにあった「長命寺」というお寺の門番が、境内の落ち葉を何かに利用できないものかと思い、このお菓子の考案につながりました。そして門前にお店を開いて売り出したところ評判になった……というのが由来だとか。一方関西風は水に浸した餅米を干し、粗めにひいたものを蒸した生地で餡を包んだもので、こちらも長命寺のものより少し時代は遅れますが、やはり江戸時代に考案されたといいます。それぞれ発祥となったお寺の名前から前者は「長命寺」、後者は「道明寺」と呼ばれることも。

 

 

この季節になると多くの和菓子店が一斉に桜餅を販売しますが、一見同じ関東風の桜餅に見えても店ごとの細かなこだわりが詰まっています。塩瀬総本家の桜餅の最大の特徴は、もっちり、ふんわりとした皮の柔らかさと食感です。多くの和菓子店は皮の生地に小麦粉と上新粉を使いますが、塩瀬総本家では小麦粉に加えるのは上南粉と上焼味甚粉。食感を追求した結果、この配合へとたどり着きました。この粉をむらなく混ぜて生地を作っていきますが、ポイントは「コシ」が出ないようにすること。混ぜすぎると小麦粉の中のグルテンが強くなってしまい、食感が変わってしまうのです。水分を調整しながら一定の速度できれいに混ぜ、なめらかになるように濾せば生地のできあがり。生地が出来上がったら今度は「焼き」の作業に。この生地は昔は11枚手焼きでしたが、現在も一番忙しいシーズンは一日約5千個を作り上げるため、26年前から機械が導入されました。しかし焼きムラなく絶妙に火を通して焼き上げるための調整は、職人の長年の経験あってこそ。

 

 

きれいな桜色に焼き上げられた皮に包まれるのは、塩瀬総本家自慢の餡。和菓子の「命」ともいえる餡ですが、この餡づくりはとても時間と手間がかかるもの。餡づくりを外注したり仕入れるお店も多い中、塩瀬総本家ではきちんと自社で餡を炊き上げるのがこだわりです。使用している小豆は、北海道は十勝平野の中心、音更(おとふけ)町で栽培された「エリモ小豆」。なめらかに練上げられたこし餡は、桜餅に使う場合には皮の食感に合わせて固さも調整。口に入れたときの口溶けを邪魔せず、かといって柔らかすぎて垂れるようなこともない、絶妙な塩梅へと仕上げています。水分が多くなると餡と皮の糖度、つまり“甘さ”が違うとどちらかに水分が移行してしまう……という問題も起こるため、皮と餡の糖度を同じ様になるように調整。こういった細かな気配りの結果、他店のものよりも長く柔らかな触感を保つことができるのも塩瀬総本家の桜餅の特徴です。

 

 

 

桜餅に欠かせないのが、この桜の葉の塩漬け。この葉は私達が普段目にするソメイヨシノではなく、白い花を咲かせる「大島桜」という種類の葉が使われています。葉の状態ではあまり匂いがないのですが、塩漬けにすることであの独特の香りが出てくるのですから不思議なものですね。ちなみによくお客様からも聞かれるのは「この葉って食べてもいいの?」ということ。基本的にはこの桜の葉を巻くことで、香りとほのかな塩味が付くことを目的としているものですが、お客様のお好みで召し上がっていただいてもいいと思います。その際は葉の真ん中、芯の部分を剥がすと食感良くお召し上がりいただけるので、この方法をぜひお試しください。

 

ソメイヨシノの開花が終わる頃には、店頭での販売を終了する事が多い桜餅。ご賞味いただき、新たな芽吹きの季節の到来をその味わいとともに感じていただければと思います。

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