書籍のご紹介

川島英子著 『まんじゅう屋繁盛記 ~塩瀬の650年~』

  • 体裁=四六判・並製・180頁
  • 定価 1,728円(本体 1,600円 + 税)
  • 2006年5月25日
  • ISBN4-00-002164-8 C0095

創業六百六十余年の塩瀬総本家、第34代当主が史料をもとに日本で初めて饅頭をつくった塩瀬の歴史をたどる。足利将軍家や信長、秀吉、家康に愛され、宮内省御用達を務めた老舗ならではのエピソードや伝統の味へのこだわり、「お菓子の神様」と呼ばれた父の思い出を通して語られる和菓子の文化史である。

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本書の「まえがき」より

 まんじゅう屋の女将(おかみ)でございます。
 饅頭は日本人の心の故郷とも言えるほど、全国津々浦々にまで愛好されている和菓子です。地域の数だけその色合いをもった饅頭があります。このように皆さまから愛されている饅頭を生業としている私は、商いへの喜びとお客様への感謝の日々でございます。

 さて、私ども塩瀬総本家は日本の饅頭の元祖と言われておりますが、これは中国元(げん)代の人だった林浄因(りんじょういん)が貞和五(一三四九)年に来日して、奈良に住し、餡(あん)入りの饅頭を製し宮中に献上したからでした。
 以来六五〇余年(注:発刊当時)、その子孫は奈良、京都、江戸(東京)と居を変えながら、その"技と味"を絶やすことなく今日まで伝承してまいりました。室町時代には八代将軍だった足利義政公より、「日本第一番 本饅頭所 林氏鹽瀬」という看板を贈られもしましたが、このように営々とまんじゅう屋を営んで来られたことは、ひとえに皆さまの日頃のご愛顧の賜と心より感謝申し上げます。

 当主になるにあたり、私は「温故知新」という言葉を胸に秘めていました。
 塩瀬の歴史は幾星霜を経る間にいろいろと誤って伝えられた点もありましたので、私は可能な限り文献を掘り起こし、塩瀬の歴史について一つひとつ足を運び、新事実を確かめました。その事実を知り得た時の喜びと感激の中で、歴代当主の功績や活躍の軌跡を知り、「暖簾」(のれん)の重みを感じ、新時代に進展していく活力を得ることができました。
 塩瀬の歴史を調べていくことは、饅頭のルーツを知ることでもありました。こうして、私は日本と中国の食文化の関わりを再認識し、日中友好の架橋となり、絆を深めることができればと思い、小さな"行い"もさせていただきました。

 それにしても、世の中とは素敵なものです。「建前と本音」のような、己を守るための心の扉を取り除き、つねに人様に真摯に向かいあい、また父と母、ご先祖様を敬う生活をしていると、何か大きな力が私を支えてくれていると実感することがたくさんありました。力のない私に多くの方々が知恵を、力を貸してくれるからです。私の当主としての二五年間は、こうした方々のお力添えによるものです。
 本書は、小さなまんじゅう屋の女将による一人語りのような書籍ですが、そこには多くの方からいただいた"思い"が込められています。どのような生業であれ、一所懸命、愚直に続けることで、私たちはささやかな"喜びや生きがい"を得ていくもののようです。

 江戸時代の当主の陰徳の行いを知るにつけ、現代の生き方をつくづく反省させられます。自己の利益ばかりを追求せずに、他を思いやり、尽すことが大切です。せっかくこの世に生を享けたのですから、一生のうち一つでも善いことをしましょう。生きがいを見つけて、毎日を過ごすと元気が出てきます。
 そんな私の生き方やさまざまな体験をお話したくて、いろいろお力添えくださった皆さまに感謝の心を込めて書かせていただきました。

■ 波多き 我が半生を ふりかえり いつか静かな 海になりたし

川島英子

本書の目次

第1章 : 運命との出会い
第2章 : 始祖・林浄因を巡る旅
第3章 : 私の「まんじゅうの歴史」探し
第4章 : 将軍のお膝元で商いを始めて
第5章 : 御菓子の神様と呼ばれた父、そして母
第6章 : 日々創業の気持ちで暖簾を守る